新築やリフォーム済みの部屋に引っ越すと、壁のどこかに小さな換気口が付いていて、常に「ゴー」という音を立てていることがあります。多くの人がこれを見て、「換気扇の消し忘れかな」と思って止めてしまいます。実はこの音、故障でも消し忘れでもありません。24時間換気システムという、住宅に組み込まれた設備が動いている音です。
「換気扇は必要なときだけ回すもの」という思い込み
結論から言うと、2003年以降に建てられた住宅の多くには、常時運転を前提とした換気設備が設置されています。止めてよいものではなく、基本的には24時間つけっぱなしにする設備です。
台所の換気扇や浴室の換気扇は、料理をしたときや入浴したときだけ回すものだと、多くの人が子どもの頃から教えられてきました。においがこもったら回す、湿気が気になったら回す。使うときだけ動かして、用が済んだら止める。この感覚が体に染みついています。
ところが24時間換気システムは、この感覚とは違う考え方で作られています。人がいてもいなくても、料理をしていてもいなくても、家の中の空気を少しずつ入れ替え続けることを目的にした設備です。リビングの隅や寝室の壁に、直径10センチほどの丸い給気口が付いているのを見たことがある人もいると思います。あれは空気を取り込むための穴で、キッチンや洗面所などにある排気ファンとセットで、家全体の空気をゆっくり循環させています。
ある家庭では、引っ越してきた初日に「換気扇の音がうるさいから」と給気口のふたを閉じ、排気ファンのスイッチも切ってしまいました。数か月後、窓の結露がひどくなり、押し入れの奥にカビが生えているのに気づいて業者を呼んだところ、換気システムが止まっていることを指摘されたそうです。空気の流れが止まると、湿気も汚れた空気も部屋にとどまり続けます。
ただし、すべての住宅に当てはまるわけではありません。古い木造住宅など、2003年より前に建てられた家では、この設備自体が付いていないこともあります。その場合は、これまで通り窓を開けての換気が基本になります。
なぜ「常時換気」が義務のようになったのか
この設備が広まった背景には、シックハウス症候群という健康被害への対応があります。住宅の高気密化が進んだ結果、建材や家具から出る化学物質が室内にこもりやすくなり、頭痛やめまいを訴える人が増えた時期がありました。
1990年代から2000年代にかけて、住宅の断熱性能や気密性能が急速に向上しました。すきま風が少ない家は冷暖房効率がよく、光熱費も抑えられます。ここまでは良いことずくめです。ところが、すきまが少ないということは、空気の入れ替わりも少ないということでもあります。接着剤や塗料に含まれるホルムアルデヒドなどの物質が、室内にとどまり続ける状況が生まれました。
この問題を受けて、建築基準法が改正され、居室には機械換気設備を設けることが求められるようになりました。窓を開けるかどうかという住む人の判断に任せるのではなく、設備の力で強制的に空気を入れ替える仕組みを、建物の側にあらかじめ組み込んでおく。そういう発想の転換です。
具体的には、部屋の空気をおよそ2時間で1回入れ替える計算で、給気口と排気ファンの数や配置が設計されています。24時間つけっぱなしという運用は、この計算を成り立たせるための前提条件です。途中で止めてしまうと、想定していた入れ替わりが起きなくなります。
ここは実務上、迷いが生じやすいところでもあります。真冬に給気口から冷たい外気が入ってくると、寒く感じて閉じたくなる気持ちはよく分かります。それでも設計上は開けておくことが前提になっているため、寒さ対策は別の方法、たとえば暖房の設定温度を上げるなどで補うほうが、結果としてバランスが取れることが多いようです。
電気代がもったいないという誤解
常時換気の話をすると、「一日中回しっぱなしだと電気代がかさむのでは」と心配する人がいます。結論を言うと、この設備にかかる電気代は、一般的なエアコンや照明に比べるとかなり小さく、家計に大きな影響を与えるほどではありません。
換気扇のファンは、消費電力がごく小さいモーターで動いています。24時間換気用のファンは、常時運転を前提に設計されているため、そもそも小さな電力で長時間動かせるように作られています。感覚的には、豆電球を一日中つけているのに近いイメージです。
ある家庭で実際に電力量計を確認してもらったところ、24時間換気のファン一台にかかる月々の電気代は、エアコンを1時間つけたときの電気代よりも少ないくらいだった、という話を聞いたことがあります。数字は住宅の設備や機種によって変わりますが、桁違いに大きな負担になるものではないというのが実感に近いところです。
それでも「止めたほうが節約になる」と考えてしまう理由は、換気扇という言葉から連想する動作音や存在感が大きいからだと思います。目に見えて動いているもの、音が聞こえるものは、実際以上に電気を食っているように感じられがちです。逆に、待機電力のように目立たないものは、実際より軽く見積もられる傾向があります。
ただし、フィルターにほこりが詰まったまま長期間放置すると、ファンが余計な負荷をかけて回り続けることになり、電気代がわずかに上がることはあります。数か月に一度、フィルターを外して掃除機でほこりを吸い取るだけでも違います。ここは「止める」ではなく「掃除する」で対応する部分です。
誤解が生まれやすい理由
この誤解が根強く残っている理由は、住宅の設備が変わるスピードに、住む人の生活習慣がついていっていないからだと考えています。
換気扇という道具に対する私たちのイメージは、昭和の台所や浴室でずっと使われてきたものに基づいています。使うときだけ回す、使い終わったら止める。この習慣は何十年もかけて体に染みついたもので、法律が変わったからといってすぐに切り替わるものではありません。
加えて、24時間換気システムについて、入居時に詳しい説明を受ける機会が意外と少ないことも影響していると思います。不動産会社や工務店が引き渡しのときに一通り説明はしていても、忙しい引っ越し作業の中で聞き流してしまう人も多いはずです。数年住んだ後に、給気口の存在すら知らなかったという人に出会うこともあります。
さらに、住宅によって設備の呼び方や見た目が違うことも、理解を難しくしている一因です。給気口が天井に付いている家もあれば、壁の高い位置に付いている家もあります。排気ファンが浴室と兼用になっている場合もあれば、専用のファンが別に付いている場合もあります。見た目がばらばらだと、「これが常時換気の設備だ」と気づきにくくなります。
ここは正直、住宅設備側の説明のしかたにも改善の余地があると感じる部分です。とはいえ、住む側としては、引っ越した際に「この換気口、何のためについているんだろう」と一度確認しておくだけで、無用な誤解を避けられます。
実際の暮らしでどう扱えばいいか
結論として、24時間換気システムがある住宅では、基本的にはつけっぱなしにしておき、フィルターの掃除だけ定期的に行うという運用が、いちばん実務的です。
まず確認すべきは、自分の部屋に給気口があるかどうかです。壁や天井に丸い穴があり、そこにフィルターやシャッターが付いていれば、それが給気口です。キッチンや洗面所、トイレなどには、排気用のファンが常時運転タイプになっていることが多く、スイッチが「強・弱」の切り替えだけになっている場合は、常時換気用の可能性が高いです。料理のときだけ「強」に切り替え、普段は「弱」で回し続けるという使い方が想定されています。
掃除の頻度は、住んでいる環境によって変わります。道路沿いでほこりや排気ガスが多い場所では、月に一度はフィルターを確認したほうが安心です。郊外の静かな住宅街であれば、数か月に一度でも十分なことがあります。フィルターが目詰まりすると、給気量が減って換気効率が落ち、結露やにおいの原因になることがあります。
迷いやすいのは、来客時や就寝時に音が気になって止めたくなる場面です。寝室に給気口がある場合、静かな夜には「ゴー」という音が気になることもあると思います。この場合、完全に止めるのではなく、風量を「弱」に調整できる機種であれば弱めに設定する、という選択肢があります。完全に止めてしまうと、その部屋だけ空気の流れが滞り、湿気がこもりやすくなります。
なお、住宅によっては24時間換気とは別に、レンジフードのような強力な換気扇が付いていることもあります。こちらは従来通り、使うときだけ回すもので、常時換気とは役割が異なります。同じ「換気扇」という言葉でくくられていても、目的が違う設備が混在している点は、覚えておいて損はありません。

